中村の読書日記

読書を中心に、徒然なるままに

フィリピン

来月、フィリピンに行く。フィリピンについて知っていることは、バナナと欧米より安く英語が学べることと、ドゥテルテ大統領が随分かっ飛ばしてるということだけだ。ということで、アマゾンで評価が高い本書を読んでみた。

f:id:nakamurada:20180112020609j:plain

 

フィリピン―急成長する若き「大国」 (中公新書)

フィリピン―急成長する若き「大国」 (中公新書)

 

 

著者は経済畑出身なので、経済系の内容が多い。文章もなかなか硬めで読み飛ばしたところもしばしば。しかし文化やその他様々なことについても触れられていて学びの多い1冊だった。

 

人口問題から始めると、日本は今高齢社会。若者が少なく高齢者が多い。それに伴い、労働力不足、年金などの社会保障問題等が発生している。なんとかして子供を産んでほしいわけだけど、なかなかうまくいってない。人口は減り始めている。人が欲しい日本。

 

一方フィリピン。人口は増加し続けている(2015年8月の時点で1億突破)。遠くない将来、日本を追い越す勢いだ。平均年齢は25歳と若い。生産年齢人口(15−64歳)の層が大変厚い状態が2050年頃まで続くと予想される。日本からすれば大変に羨ましい。

 

ところが話はそう単純じゃないようで。

 

一般に人口動態は、発展するにつれて「多産多死→多産少死→少産少死」のプロセスを踏むそうだ。ところが、フィリピンは未だにセカンドステップ、多産少子の位置から抜け出せないというのだ。そこで国は人口抑制令を発してなんとか減らそうと試みている。ところが、フィリピンは人口の8割がカトリックカトリック教会は中絶はもちろん避妊も認めないスタンスで、対立。なかなかうまく行かないようだ。人がいらないフィリピン。

 

また、生産年齢人口がいくら増えても、そこに雇用の受け皿がないとそれはメリットにならない。宝の持ち腐れというやつである。フィリピンは国内の産業が製造業を中心に育っておらず、失業者と準失業者(本人たちが望んでいる労働量を確保できない人たち)を合わせると、20パーセントに達する。国民の5人に1人が、満足に働けていないというのは、大きな問題である。

 

そんなフィリピンの経済を支えているのは、人口の1割ほどもいる海外労働者だ。タガログが母語だが、共通語で英語もあるので、多くの国民が英語を使うことができる。それがグルーバル化にうまくフィットし、海外雇用庁の支援などもあって、多くの人がアメリカ、中東、アジア、そして欧州と世界中に散らばって働いている。フィリピンの経済は、貿易ではなく彼ら1000万人の仕送りによってなされる国内消費から成り立っているのだ。

 

 

他にも、

  • フィリピンはとにかくインフラがひどい。朝夕には交通渋滞が起こり、雨が降れば道路が水浸し。電力も足りていない。インフラをなんとかしないといけないのは大統領もしっかり認識しているのだが、税収が少なくて難しい。脱税などの不祥事はたくさんあるし、そもそも徴税能力が低いらしい。こういうことを知ると、税金って大切なんだなと思う。
  • 今のフィリピンは貧富の差がひどいのだが、その原因はスペインに統治されていた16世紀に遡る。大土地所有制度が認められてしまい、力を持った地主。1898年米西戦争で勝利したアメリカがフィリピンを統治した時も、解体するよりも仲良くしたほうがいいということでシステム変更せず。結果、今も力を持った大土地所有者として君臨している。既得権を壊せるだけの体力が中央政府にはない。農地改革の失敗例である。(日本の場合は、戦後GHQ主導のもと速やかに行われた)
  • 実は日本は1942年から数年、マニラを占領している。そこでアメリカ軍と戦い、日本人50万人、フィリピン人100万人以上の死者を出している。当然フィリピンの対日感情は最悪。しかし、日本が賠償金を支払い、丁寧に謝罪をし続けたことで徐々に態度が軟化、最終的には無事に関係を修復し今に至る。これ、全く知らなかった。
  • ドゥテルテ大統領はかなり過激で、「犯罪者は必要であれば殺す」という宣言通り、就任から半年で麻薬犯罪者6000人が死亡(中には口封じのために組織に殺害された人数も含む)。これは民主主義国家として大変よろしくないのだけど、国民は支持している。それほどまでに国内の腐敗がひどいと言える。彼の強権的なスタイルがフィリピンを膿を綺麗に取り除けるか、あるいは次第に独裁的な政治に移行していくのか。諸刃の剣。

 

200ページ足らずの薄い新書だけど、情報がたっぷり詰め込まれていて濃厚な読書ができた。2017年1月出版なので情報も新しいし、フィリピンを知りたい人にオススメ。来月のフィリピンが楽しみ。マカティ市でフィリピンの光と闇を見てこようと思う。